2000 年 5 月の高原日記

   

2000-05-01(月)  快晴     自宅

 人間ドックを受けるために高円寺南口まで出掛けたが・・・・なんと病院側の手違いで、予約日の間違い。従って、今日は胃カメラの検査が受けられないとの事。
 ショックである。
 胃カメラ検査を受けるために、一杯に詰まったスケジュールを縫って、ヒュッテから出掛けて来たようなものだから・・・・時間が一日狂うと色々な事に差し支えが出て来る。 しかも、昨夜、夕食を 8時までに済ませ、今朝の朝食も抜き、検便も用意してきたのに・・・・とも思う。

 しかし、そんな事を何時までも考えていても仕様がない。
 胃カメラを除く検査を全て受けて帰宅。
 明日は胃カメラだけを受ける予定である。

 それにしても、又、今夜 8時までに夕食を済ませ、もう一度、事前準備をしなくてはいけないとは・・・・・・・!!

   

   
2000-05-02(火)   快晴    自宅 → ヒュッテ

 高円寺にて人間ドックの胃カメラ検査。
 検査後、検査をした女性のお医者さんによると、胃の下部に胆汁が見受けられ、その刺激の為か、胃の下部に敷石のような突起が幾つか出来ているとか・・・・
 念の為、組織検査を行う由。
 ・・・・この前、胃カメラの検査をしたのは 2年前の事だったので、検査が終ると、正直な話、本当にホッとした。
 検査の結果は、追って連絡があるとの事・・・・・・・

 夜 9 時、中野発、AKKR 3 人でヒュッテに向かう。
 ・・・・ゴールデンウィーク最盛期の関越自動車道は赤いテールランプで一杯である。
 そのテールランプの流れは、藤岡で分かれた長野自動車道に入っても途切れる事が無い。
 ゴールデンウィークは、毎年、高速道路は混雑するが、こんな混雑は、聊か珍しい。
 途中、藤岡付近で渋滞予告通り渋滞約 1km

 その後の渋滞予告によると、軽井沢近辺で渋滞 4km とか・・・・
 ・・・・先刻、渋滞情報通り藤岡付近は渋滞だったので、軽井沢付近も情報通りの 4km 渋滞が起きている可能性が高いだろう・・・・てな事を家内と話し合って、急遽、下仁田で高速を降りることにする。

 高速を降りてみると、佐久市につながる国道 254 号線はガラガラで、我がゴルフ・カブリオレの専用道路。
 ・・・・時速 60 km 程のスピードで、スイスイと佐久市までやって来た・・・・という訳
 まさに、ラッキーである!!!!

 お蔭様で、真夜中少し過ぎに、ヒュッテに着いてしまいました。

   

  
2000-05-03(水)   快晴      ヒュッテ

 ヒュッテもいよいよ春である。
 ・・・・と言っても、梅の花は咲いてないし、勿論、ヒュッテの近くでは桜も咲いていない。

 午後、一家三人で観光案内所に、ラジコンの飛行機を見に出掛けた。
 例の奴である。
 でも、ホールを覗いてみると、あの大きなゼロ戦の変わりに双発の C-3 とかいう大きなラシコン・モデルが置いてあった。
 家内は、ラジコン・モデルに大変興味を持ち
 「こんなに重そうな飛行機が、ホントに空を飛ぶのかしら?」
 と、何回も繰り返していた。
 「うーん、よく分からないけど、重くたって、キチンと出来ていれば、空を飛べると思うよ・・・・だって、あの馬鹿でかい重さ 250 トンのジャンボ機だって、何人もの人を運んで空を飛ぶんだもの・・・」
 と言うと
 「ああ、そうかあ!!」
 と、家内は納得の面持ち。

  
 暫くすると、このホールに・・・・ヒュッテの斜め向かいの吉松さんが一人で、飛行機を見にやって来た。
 「いやあ、これは面白い!! ・・・・凄いですね・・・・」
 吉松さんは、興味深々でラジコン・モデルを眺めていた。
 それも、その筈、彼は本物のジャンボ・ジェットのパイロットだからである。

 僕達はホールにいた人達と色々とラジコンの話しに花を咲かせていたが、暫くして、僕が
 「明日の朝 6時に、サッカーグランドでラジコン飛行機を飛ばすのを見に行くんですよ」
 と吉松さんに話すと、彼も見に行きたいと言う事になった。

 ・・・・そんなこんなで、僕達は小一時間ほどしてからヒュッテに戻って来たが、
 驚いたことに、我が家でラジコン・プレーンの飛行に一番興味をもったのは、家内でした。

 彼女の曰く
 「よーし、あしたの朝 6 時に起きて、ラジコン・ヒコーキが飛ぶのを見に行こーっと!」
 ・・・・ホントに本気なんだろうか?

 
 

   

   
2000-05-04(木)   晴     ヒュッテ

 06:00 起床。
 ・・・・驚いたことに、我が家で一番先に目を覚ましたのは、ホントに家内でした!!
 大急ぎで身支度を整え、一家で、町営グランドに直行すると、もう吉松さんが来ていて小池さんや篠原さんと話しをしていた。

 僕達が着いた時、丁度、小池邦人さんがゼロ戦を飛ばしている所だったが、見ていると、宙返りや背面飛行などがあって、とにかく面白い。
 そのあと、今度は篠原さんが別の一機の飛行演技を見せて呉れたが、キリモミをしたり、技の名前は知らないけれど、飛行機を横に垂直にして斜めに飛ばす何んとも言えぬ奇妙な飛行を見せてくれたりした。

 そこに大畑の森下さんが来たので、皆が一休みしたときに、
 「森下さん、紹介します。こちら、吉松さんです・・・・実は、吉松さんも飛行機を飛ばしているんです・・・・」
 と言って吉松さんを紹介すると、森下さんは興味をもって
 「・・・・どんな飛行機ですか?」
 と訊いてきたので、僕が受けて
 「ジャンボ機です・・・・」と言うと
 「ジャンボオ・・・・????」
 と森下さんは、そんなラジコンあったかな・・・・という面持ちの不審顔、そこで
 「ジャンボってホントのジャンボですよ・・・・吉松さんはジャンボ機の機長さんなんです」
 と言うと
 篠原さんと森下さんは
 「ウヘエ・・・・飛んでもない人に今まで講義をしちゃったよ・・・・こりゃあ・・・・」
 と、ボヤく事しきり・・・・
 ・・・・しかし
 「いや、とても面白かったですよ・・・・私が経験した事がないテクニックがありましたから・・・・」
 と言った吉松さんの言葉の中に、二人はすぐに吉松さんの性格の素晴らしさに気が付き、今度は逆に吉松さんに色々な質問をし始めた。

 僕は、こんな風に、人と人とが仲良くなり、人の輪が広がるのを見るのが大好きである。


 ・・・・さて、その後は、今度は場所を八千穂レークに移して、小池邦人さんの水上飛行機の初飛行を見学することになった。

    

小海町には大空でラジコン飛行機を飛ばしたり
松原湖にラジコン・ヨットを浮かべてレースに夢中になったりしてい少年のような大人達が何人かいます・・・・

今日も、ビッカビカの水上機が一機、初フライトに向かいました。
    

  

ご覧下さい!! ・・・・離水前加速中の同機の姿を・・・・!!

パイロットは八那池の小池邦人さんです。

・・・・邦人さん、初フライトお目出度う・・・・!!

  

 

もう一人の大空に憧れる少年のような篠原敏治さんが操縦する双発の水上機が・・・・  

 

離水した瞬間の雄姿・・・・

どうです・・・・美しいでしょう!!

   

 その後、午前 10 時・・・・・
 僕達は今度は山を下りて松原湖に集まって、5 月 7 日のラジコン・ヨットレースに向けて、帆走の練習を 2 時間ほど夢中になってやったが、何んかホントに皆んな子供みたいでした!! 

   

   
2000-05-05(金)   快晴     ヒュッテ

当番の日と非番の日を間違えたチョンボの日でし

   

  
2000-05-07(日)   曇     ヒュッテ   

 いよいよ今日は、第一回松原湖ラジコン・ヨット・ボート・フェスティヴァルの日・・・・!!

 午前 9 時半までに参加者全員がエントリーを済ませ、10 時からヨット・レースが始まる。
 参加艇は全部で 20 隻。
 ・・・・レースの方法は、まず、参加艇20艇を5 艇づつ 4グループに 分けて、各グループ毎に2レースを行い、総合点の上位 2艇が決勝に参加する・・・・というもの。

 僕は Bグループだったが、いざ始めて見ると、今日は風が強くて思うように舵が効かないではないか・・・・
 でも、1 レース目はどうやらこうやらの 2位。
 昼食をはさんだ2レース目はスタート時に強風に煽(あお)られて舵が効かず、他艇と接触をしたまま 2艇とも岸まで流されると言うアクシデントが発生。・・・・おやおやと思ったが、立花やの慶太さんと宮本屋旅館のヒロシさんが乗った助け船に助けられてレースを続けたのはいいが、今度は第一マークを廻ったところで、またまた強風にあおられて操舵不能に陥り悪戦苦闘。
 やっとの事でピンチを脱出した時には、すでにレースの半分以上が終っており、それから追い上げたものの残念ながらこのレースの成績は4 位。
 そんな事も手伝って、B グループの総合点では、僕と八那池の小池邦人さんが同点の2 位。
 「おやおや、まあ・・・・!」
 と思ったものの起こってしまった事は仕方がない。
 ・・・・結局
 「ジャンケンポン!!」
 で決勝進出者を決める事にしたが、邦人さんがグー・僕がチョキで、僕の負け。
 ・・・・邦人さんが決勝に進出する事になりました。

 さて、決勝戦は、4 グループから勝ち上がった 2艇づつ、合計 8艇の間で争われることになりました。
 レースはコースを 2周の一回勝負。
 ・・・・下の写真が、そのスタートの瞬間の写真です。


美しい決勝戦のスタート模様

  スタート後、各艇は第一ブイに向かうが、この第一ブイの回頭が最大の難所。


水温(ぬる)む春、第一ブイに向かう各艇。

でも、この第一ブイが最大の難所なんです。

 ・・・・ブイをショートカットする艇。
 ブイを回頭後、岸に吹き寄せられる艇。
 するすると、この難所をクリヤーする艇。
 ・・・・見ている我々も、ヒヤヒヤしたり、爆笑をしたり、感心をしたり・・・・

 グループ戦の 2レースでは、2レース共に 1位だった美術館の中島さんも、決勝戦のこの難所で強風に吹かれて惜しくも座礁。・・・・優勝者は彼の後輩の愛知県からやって来た佐藤さんという事になりました。


優勝者の佐藤さんを囲んで・・・・

 メデタシ、メデタシ・・・・・!!   

 なお、最後になったけど、小海町の最高順位者は、大畑団地の森下文夫さんでした。

     

      
2000-05-11(木)    曇       ヒュッテ

 ・・・・つい 4 〜 5 日前から、ヒヨドリよりひと回り大きくて、黄色い大きな嘴(くちばし)の野鳥が小鳥達に用意した我が家のヒマワリの種を食べに来るようになった。
 ・・・・なにせ、この野鳥・・・・ヒヨドリやシメよりも、ひと回り大きいので、シジュウカラ、コガラ、ヒガラ、カワラヒワ、ウソなどは皆んな追い払われてしまう。
 でも、人間に対しては極めて憶病で、僕の顔を見るとすぐに逃げてしまう。

 それでも、僕が何もしないで知らん顔をしていた為か、だんだんと馴れて来て、今朝はとうとう、ご覧の通りに撮影出来る迄になってしまった。

 ・・・・さて、この野鳥・・・・デジカメで撮ったあと、図鑑で調べて見ると、何んとイカルだという事が分かった。

 このイカルを含めると、ヒュッテの餌台で写真を撮った野鳥の種類は 8 種類ほどになる・・・

 今、ふと思ったことだが、そのうち、このホームページ上にヒュッテ野鳥図鑑のページを開いたら面白いんじゃないかと思ったが、どうだろうか・・・・・?????

   

   
2000-05-12(金)    晴       ヒュッテ

 兎に角いそがしい昨今。
 この高原日記をユックリと書いている時間が無い。

 今日の一日も、午前中は洗濯と掃除。
 午後は、ひまわり作業所の打ち合わせ、夜 7 時半から将棋クラブで子供達と将棋に興じ、その後、9 時から高原日記美術館で開かれたこうみ塾の月例会に出席。 ”プティリッツァ物語”の打ち合わせをしてから帰宅したが、ヒュッテに帰って来たのは午後 11 時過ぎだった。

 アー、疲れたあ・・・・!!

    
     

2000-05-13(土)    晴       ヒュッテ

 午後 5 時半。
 案内所の手伝いが終り、早々に後片付けを済ませると、僕はマイ・ポンコツ・カーを駆って、国道 141 号線のマイショップに急行した。
 ・・・・今日は、A子ちゃま、それから彼女の姪っ子の恵実ちゃまと、清里で一緒に夕食をする約束になっていたからである。
 「Eちゃまって・・・・どんな女性だろう・・・・????」
 ・・・・E子さんというA子ちゃまの姪御さんに会った事のない僕は、何んとなく胸をワクワクさせながら、約束の場所に急いだ。

 僕は、新しい人と知りあいになるのが大好きである。
 と言っても、全ての人が好きな訳ではない。
 中には、ヘドが出そうな位に嫌いな人もいる。
 ・・・・大嫌いなタイプは・・・・地位・財産・学歴・役職・資格などなど・・・・どうでもいいような事が鼻の先にブラ下がっている、自己顕示欲の強い人間だけれども・・・・そうでない・・・・世間体やヘンテコリンな道徳観にとらわれない人と出会うと、本当に、僕は幸せだと思ってしまう・・・・
 ・・・・しかも、その相手がチャーミングな女性だったら・・・・もう、それこそ、サッイコウ!! ・・・・ワンダフル! オーチン・ハラショー! ハッピエスト! ゴージャス! ベラマッチャ! カランバ! カランビッシモ! エッベリシング・オッケー! ・・・・てな事になってしまう・・・・ハハハハハ!!!!
 ヨウスルニ、文字通り、最高って訳である!!

   
 約束のマイショップ近くのパーキングに来てみると、銀色の真新しくて綺麗なワゴン車が停っていた。
 「えっ、これがEちゃまの車?・・・・うへえ、キレイな車だなあ・・・??」
 僕は、半ば呆れ(あきれ)顔で、ポカンとして呟いた。
 ・・・・今日は、事前の打ち合わせで、土地勘の無い僕を、EちゃまとA子ちゃま二人がピックアップする事になっていたからである。
 (でも、どうして、これが彼女の車だって分かるの?)
 ・・・・こんな事を考えながら、僕はサイド・ブレーキを引いて、外に出ようとした。
 ・・・・すると、その時、そのワゴン車の両側のドアが開き、背のスラッとした女性が一人づつ出て来て、二三歩こちらに歩いて来た。
 一人は、A子ちゃま・・・・もう一人はA子ちゃまと背丈が同じ位の背のスラットしたスタイルのいい女性である。
 もう、間違いは無い、その、もう一人の女性がE子さんに違いない。

 ・・・・ところで、A子ちゃまは、僕より背が高い。
 そのA子ちゃまに就いて僕が知っているのは、よく似合う歯科のユニフォームを着ている姿だけである。・・・・だから・・・・今日、彼女がユニフォーム姿以外の服装で車から出てきたのを見た瞬間、僕は本当にオドロイテしまった。
 ・・・・って言うのは、歯科のユニフォーム姿に比べると、フワッとしたライト・パープルの地にピンクレッド系の模様の入ったシックなドレスを着ているA子ちゃまの方が遥かに素敵だったからである。
 (ウワッ、綺麗!!)
 僕は、思わず息を呑んでしまった・・・・
 しかも、彼女の隣に立っているのは、A子ちゃまとこれまた同じくらいの背丈のスラットしたうら若き女性だったのである。

 瞬間、反射的に、僕は心の中でこう叫んでいた。
 (アッ、ヤバイ!! ・・・・セイノタカイ ビジョフタリ!! ・・・・キンチョウ イケナイ、シンコキュウ スルアル ヨロシ!!)

 ・・・・何を隠そう!!
 普段から 162cm という自分の背の低さに、ちょっぴりコンプレックスを感じていた僕は、背の高い女性にひどく弱い。
 ・・・・だから・・・・その瞬間・・・・背の高い女性二人を見た僕が、ドキンとした後、
 (これは困った・・・こりゃあ、僕の一番弱いタイプだよ・・・しかも二人だ・・・!!)
 とは、思ったものの、もう、どうする事も出来ない。
 僕は、A子ちゃまの方に近づいて
 「今日は、有り難う・・・・誘って戴いて・・・・とても楽しみにしていました」
 と言ったあと、もう一人のスラッとした女性に向かって
 「始めまして・・・・八岳です!!」
 ・・・・と言うと
 「今日は・・・・」と彼女。
 「姪のE子です・・・・」
 ・・・・同時に、A子ちゃまが彼女を僕に紹介してくれました。

 そのあと、ピカピカの自動車の方に三人揃って歩き始めると、A子ちゃまがすかさず
 「八岳さん、前の席にどうぞ・・・・」
 と、僕に言った。
 ・・・・A子ちゃまは車の運転が出来ないから、前の席、つまり助手席に僕が座ると言う事は・・・・Eちゃまと僕が並んで座るということなのだ・・・・
 ウヒョヒョヒョ・・・・ボクの心臓は思わずドキンとした・・・・!!
 でも、瞬間、僕の口から出た言葉は
 「え? 僕? 僕はウシロの席でいいですよ。(姪御さんと)二人で並んで座ったら?」
 ・・・・であった。
 と言うのは、僕の心の中で、例の陰の声がこう囁(ささや)いたからである。
 (アー、サッカクイケナイ、ヨクミルヨロシ・・・・ジブンノスガタ・・・・!!)
 「いいの、私はウシロで・・・・八岳さん、前に座った方がいいわよ。景色がよく見えるから」
 と、A子ちゃま・・・・・
 (おい、俺はどうしたりいいんだ?)
 ・・・・僕は、”陰の声”に声を掛けてみた。すると・・・・
 (アナタ、カノジョノソバ、スワリタイ、オモッテル・・・・ジブンノココロ・・・・ウソツク、トテモヨクナイ!」
 僕は、”陰の声”に素直に従うことにした。 
 「ホント? アリガトウ!! じゃあ、僕、前に座るね・・・・」
 ・・・・僕が、Eちゃまと並んで助手席にすわった。
 Eちゃまは、僕がシートベルトを掛けるのを待って、静にサイドブレーキを緩め、アクセルを踏み込んで、ユックリと車を発進させた。

 「ねえ、僕って、子供と一緒なんですよ・・・・」
 ・・・・車が走りだすと、すぐに僕はこう言った。
 「あら、どして?」と、A子ちゃま。
 「だって、乗り物は何んでも、前に座るのが好きだからです・・・・それと・・・」
 「・・・・」
 「女性の隣に座るのが大好きなんです・・・・」
 「ハハハハハ・・・・」
 瞬間、Eちゃまが屈託なく笑った。
 ・・・・すごく、飾り気がなくて、素直な女性らしい・・・・

 だが、笑ったトタン、ゆらりとハンドルが振れた。
 「おい、おい、おい・・・・大丈夫かよ、センターライン越えちゃったぜ!・・・・気を付けなきゃあ・・・・」
 とっさに、僕がこう言うと、恵実ちゃまは
 「はい・・・・」
 と素直に返事をしたあと、また、ククククク・・・・とおかしそうに笑った。
 ・・・・彼女は、ホントに素直な女性らしい。
 すると、A子ちゃまが声をはさんだ。
 「さっき、車の中で、E子ったら、八岳さんを見た時 ”うわあ、カッコいい”って言ったんだよ」と言った。
 「えーっ、僕があ・・・・?」と、僕。
 「うん、そう・・・・二人で、”今日、八岳さんはジーンズ姿で来るかなあ?”って話してたの・・・・だけど、違ったわ・・・・」
 そう言えば、僕は普段の生活では、ジーンズを着ている事が圧倒的に多い。
 あの、太陽をふんだんに吸った健康な匂いと、なんとも言えぬサッパリとした肌触りが大好きなのである。

 話は変わるが、このホームページの散文詩集「白樺色の風」に、こんな詩が載っている。

(1998-04-15)  

ジーンズ

 

サッパリと洗って

     カラカラに干すと

粉石鹸の匂いが

     ほのかにする。

 

 

脚をとおすと

     ゴワゴワと温かく

ギュッと持ち上げると

     ポコチンが適度に締めつけられる。

 

 

そして、・・・・バンドを締めると

     猛烈に野原を歩きたくなる。

そんなジーンズが

     僕は大好き!!

  


 話は、元に戻るけど・・・・
   
 ・・・・僕がきょう着て来たのは、黒のトックリ・セーターの上にモス・グリーン系のダブルの上下を羽織っただけの姿だったのである。
 ・・・・だから、Eちゃまが言ったという
  ”うわあ、カッコいい”
 って言う言葉を聞いた瞬間、僕は、いささかビックリしてしまったのである。
 だから、そのA子ちゃまの言葉を耳にした僕は、本能的にこんな言葉を二人に返していた。
 「うーん、ホントのこと言うとね・・・・ホントは今日、ジーンズ着て来たかったんだよね・・・・僕って、背広が余り好きじゃないから!・・・・特に、ネクタイが大嫌い!・・・・アレしてるとさあ、何か首に首輪はめられているみたいで・・・・でもさあ・・・・今日は、そういう訳にもいかないでしょっ・・・・」
 「・・・・私も、ジーンズが大好きなの・・・・今日は、洋服着て来たけど・・・・ウチに居るときは、いつもジーンズ着ているの・・・・」とEちゃま。
 ・・・・その言葉を聞くと、僕はとてもホッとした気持ちにさせられた。
 数学で言う同類項に、僕達二人が属しているような気がしたからである。

  
 Eちゃまの運転は非常に静かである。
 スピードは出さないし、兎に角、女性らしい安全な運転で、つい去年までの僕の運転とはかなり違っている。

 去年までの僕は、気が付くと、制限速度 40km のこの国道 141号線を 70km から 80km 、時には 90km くらいのスピードで走っている事がよくあったし、長野自動車道では120km 〜 130km のスピードで走ることも、そんなに稀ではなかったからである。
 その為だろうか・・・・お蔭様で、去年は 141 号線上でスピード違反で捕まって罰金 9000 円也を国庫に収め、長野自動車道では 165km 程のスピードを出し、危うく大事故を起こしそうになって以来、とにかく自重して、スピードを出さないように心掛けるようになって今日に至っているからである。
 それでも、最近の僕は元の木阿弥・・・・時折、気が付くと可成りのスピード超過をしているのである!!

 ・・・・だから、Eちゃまの運転は・・・・夢のような運転だった訳。
 ・・・・・・・
 夕暮れの静かな 141 号線の景色は、とても素晴らしい。
 左側に千曲川が時折り姿を見せ、右側には小海線の単線路が見え隠れする。
 樹々の若葉が、匂うが如くに窓の外を流れて行く 5 月の爽やかな夕べ。
 ・・・・そんな夕暮れの景色を楽しみながら、我々三人は、色々な事を話題にして笑い合った。
 まず・・・・・・・ヒュッテに於ける僕の生活・・・・・・・が最初の話題になった。
 ・・・・・・・
 ・・・・・・・
 「食事は、ぜんぶ自分で作ってさあ、洗濯も、掃除もぜんぶ自分でやるんだよ・・・・」
 「え? ・・・・東京? ・・・・うん、月に 2 回くらい帰ることにしているの・・・・だってさあ、時たま帰って整理をしないと、僕宛ての手紙や印刷物が溜まっちゃうものお・・・・」
 等々 ・・・・・
 ・・・・・
 僕は、今晩、初めてEちゃまと話しをしたのであるが、少なくとも、僕に関する限り、彼女を交えて三人で話すことには、全く何んの抵抗もなかった。
 ・・・・と言うより、三人で話しをする事が本当に楽しかったのである。
 僕たち三人は、よく話し、よく笑った。

  
 車が清里に入ってから暫く走った”丘の見える公園入口”の信号で、車は今来た道を右後方に鋭角に曲がった。
 ・・・・すると、Eちゃまは
 「少し早すぎちゃったかなあ、(小海を)6 時出発でもよかったかも知れないよ・・・・」
 「少し行ける所までドライブしてから、行こうかな?」
 ・・・・などと言いながら、美しい左右の牧場や景色のよい林の間を縫って車を走らせた後、予約時間近くになって、レストランの駐車所にパークをした。

 レストラン ”イゾルデ”は、静かな林の中にある。
 ・・・・その奇麗に整備された木陰の中のレストランの入口の近くまで来た時、突然、A子ちゃまが、木の枝に懸かっていた鉢植えの花を見ると足を止め
 「あら、ロベリアだわ・・・・」
 と言ったあと、僕の方を振り返って
 「これが、ロベリアなの・・・・・!!」
 と嬉しそうに言った。

  
 ロベリアは、A子ちゃまが好きな花の一つで、先月、絵手紙に描いて僕に送って呉れた花でもある。・・・・その絵手紙を貰った時、僕は、とても嬉しくて、その絵を小さな額に入れて寝室の壁にかけておいたが、その事を思いだした僕は
 「どれ、どれ、どれ・・・・」
 と言いながら、彼女が指し示した鉢に近づくと、鉢一杯の花のなかに鼻を埋(うず)めて胸一杯の深呼吸をした。
 「いい匂いだよねえ・・・・!!」
 ・・・・花の中から顔を出したあと、僕がそう言うと、あい子ちゃまは可笑しそうに笑った。
 ・・・・僕の仕草が、子供っぽかったのかも知れない。




 ・・・・さて、レストランの中に入り、テーブルに案内されると、僕達はまず食事の前に、手入れの行き届いた庭を散歩して来ることにした。 
 ・・・・・・・
 ・・・・・・・
 スグリの植え込みの近くでは、女性二人が以前食べたスグリのデザートの話しをして呉れ、
 新緑の木の下では、庭に植わっている色々な樹木の名前の話をし、
 レストランのご主人の手作りになる素敵な小屋を、子供のように、三人で覗きに行ったり、
 ポーチへの出口の近くに落ちていた蜂の巣を見付けては、子供のようにはしゃいだり、
 花の寄せ植えの美しさに感心したり・・・・・
 ・・・・・・・
 ・・・・・・・
 ・・・・した後で戴いたフランス料理の美味しかった事!!!!


 僕達は、前菜が運ばれると、冷たく冷えたワインとワイン・ジュースで乾杯をした・・・・
 「ああ、美味しい! ・・・・もう、わたしお腹がペコペコだったの・・・・」
 「ねえ、聞いて・・・・今日のお昼御飯少ししか食べなかったんだよ・・・・」
 「え、ホント? ・・・・僕もそう・・・・だって、その方が晩ご飯が美味しいもんねえ!」
 等々、中学生か高校生のように、新鮮な気持ちで美味しい食事を食べ始めた。

 それから、約 2 時間、僕達三人は美味しい料理を食べながらホントに色々な話題に夢中になった。
 初めてのデートの話し・・・・
 ご主人と何処で出会ったのか・・・・
 プロポーズの言葉は・・・・?
 ・・・・・・・
 ・・・・・・・
 etc.  etc.  etc.
 エトセトラ、エトセトラ、エトセトラ・・・・・
 ・・・・・・・
 ・・・・・・・
 僕も、話しの成り行きに合わせて
 僕と家内を結婚に至るまで、結び付けていたミニチュアの登山靴のお話し・・・・
 生まれて初めてのデートの時、大好きだった微積分の話しを 2 時間もして、アッと言う間にフラレタ話し・・・・・
 結婚前に、たった一回だけあった、ダンスの先生との恋愛の顛末(てんまつ)・・・・
 ・・・・などの話しをしたら・・・・
 聞き手の女性二人がよく笑ったこと・・・・!!
 ・・・・時には・・・・ほんのチョッピリだけ感心して呉れた事もあったけど
 そんな事はすぐに何処かに忘れ去られ・・・・最後のダンスの先生との恋愛の顛末記の話になると、 ”女泣かせの八岳さん・・・・”と二人の女性から冷やかされたり・・・・・
 いやはや、まったく散々の体(てい)たらく・・・・!!

 ・・・・・・
 でも、時間の経つのは早いもの・・・・
 気が付くと、もう 9 時近く・・・・
 僕達は、その頃になって、今夜、これから家に帰らなくちゃいけない事を思いだしました。

 ・・・・・・
 ・・・・さて・・・・
 帰りも、Eちゃまが、彼女の素敵な車で、僕を八那池のマイ・ショップまで送って呉れました・・・・


 ・・・・・・・
 お別れする場所に着くと・・・・
 ・・・・・・・
 「じゃあ、お休みなさい・・・・ホントに楽しかったです!!」
 「こちらこそ・・・・さようなら」
 「では、又ね・・・・お休みなさい」
 僕は、素敵な女性二人とサヨナラの握手をし、二人を乗せた車のテールランプが視界から消えた所で、やっと思いだしたように、アクセルを踏み込んだ。

 ・・・・そのあと、ヒュッテに向かう坂道を 500m 程上ったところ迄、ハントルを握っていた僕は突然・・・・
 「うわーい、アイスクリームを買いに行こーーー!!」
 っと叫ぶが早いか
 アッと言う間に車を U ターンさせ、大急ぎで八那池のセブン・イレブンのスーパーまでとって返し、大きなアイスクリームを一つ買うと、又、全速力で山を上がり、高原野菜の畑の真ん中でエンジンを止めて・・・・その大きなアイスクリームをゆっくりと食べ始めたのである。

 いつ迄も、二人と素敵な友達でいられると、いいんだけど・・・・・・なっ!!!!
 

    

    
2000-05-16(火)    晴のち曇、ときどき雨     ヒュッテ → 自宅

 今日は中野に帰る日。

 ・・・・今回初めて、中央道の高速バスで帰って来た。
 そのおおよその経過時刻は下記の通りだった。

   14 : 15  ヒュッテ発
   14 : 42  小海駅発
   15 : 53  小淵沢駅着
            小淵沢〜中央道高速バス停留所までは、約 30 分程の徒歩
   16 : 45  中央道小淵沢IC 発  (時刻表より約 10 分遅れ)
   19 : 15  新宿駅西口終点着   (予定時刻より約 15 分遅れ)

 小淵沢での乗り換えは、約 30 分ほど歩かなければならなかった為、ちょっとウンザリしたが、その他の事は全て順調で快適な旅であった。

 今後は、この路線を大幅に利用することにしよう。

 ・・・・だって、新幹線で帰る運賃の半分以下の運賃で帰れるんだもの・・・・!!

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 夜、都内の自宅で、メールを覗いて見たら、ユリからメールが届いていた。
 「あ、ユリからだ・・・・!!」
 僕は、懐かしさに思わず声を上げた。
 ・・・・ユリは、以前、僕と一緒に仕事をしていた女の子である。
 背は、僕より 4cm も高いのに、とても可愛らしい性格の持ち主である・・・・(こんな言い方って背の高い女性に失礼かなあ・・・・・??)

 昔、30 才以上も年の離れている僕の部署に配属になった頃・・・・ユリは本当にガキンチョだったけど、一緒に仕事をしているウチに・・・・もともと、優しかった性格にしっとりとした女性らしさが加わり、
 「ああ、いい娘(こ)になったな・・・・!!」
 と思い始めた矢先、ユリは別のセクションに異動になり、
それから、間もなく社内のある男性社員が彼女に目をつけ、とうとう彼女を連れて行ってしまった・・・・と言うのが、彼女と僕の今日までの歴史のあらましである。

 ちなみに、ユリは松原湖のヒュッテが好きなようで、確か、3 回か 4 回遊びに来ているのではないかと思うけど・・・・

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こんにちは、有里です。

八岳さん、ご無沙汰していますがお元気ですか?

4月1日から、産休&育児休明けで1年4ヶ月ぶりに会社に 復帰しました。
慌ただしい日々でご挨拶が遅れましたが、現在、本社の渉外部業務渉外室におります。
(休職前と同じ職場)
当初は電話を取るにもドキドキ!でしたが、少しずつ“カン”を取り戻しつつある今日この頃です。

娘の千鶴(1歳4ヶ月)も、私と同様に4月から保育園デビューをしました。当初は、環境の激変に戸惑い、涙・涙・涙の毎日でしたが、現在はお気に入りのおもちゃやクラスにボーイフレンドも出来て!元気に楽しく過ごしています。

ひとまず近況報告を兼ねてメールさせて頂きました。今年こそ、一家で松原湖にお邪魔したいなぁと思っています。その際には、またご連絡させて頂きますのでよろしくお願い致します。

追伸:
先日仕事で森さんとご一緒した際、八岳さんのことを尋ねられました。メールアドレスを教えて欲しいとのことでしたのでお知らせしました。
森さんは、現在、SACD戦略にいらっしゃいます。
(森さん会社アドレス:ymori@・・・・・)
那須にご自身の別荘を建築中とかで、写真を見せて頂きました。  
 

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・・・・懐かしい有里からのメールに対して、僕はすぐに返事を書いてメールを送った。
そのメールは途中から、あらぬ方向に脱線しちゃったけど・・・・!!!!

   
有里、こんばんは!!

   
有里からメールが届いたのでビックリ・・・・!!

よく、有里の事を思い出しては・・・・
「ユリの奴、今、何をしているんだろう?」
などと考えていましたが、今夜、とつぜん舞い込んで来たメールを読んでホッとしました。

僕のHPの日記を読んで貰うと、分かると思うけど、最近メッチャ忙しくて、この間あたりは、少し体調を崩していました。

今夜は・・・・今、少し前、松原湖から中野に帰って来たばかり。
まだ、荷物も片付けてないので、又、書きますが、向こうでの生活は・・・・住めば住むほど、楽しくなって来ています。
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・

   
  

   
2000-05-20(土)    雨      自宅

終日雨の一日。

明日、また松原湖に出掛けるけど、中央高速道バスの予約をした。

09 : 40 新宿発岡谷行きのバスである。

午後、久方振りに勤労福祉会館に卓球をしに行った。
自分のラケットを長野に忘れて来たので、コッチロのお古を使ったが、残念ながらラケットが弾み過ぎて、うまくカットが出来なかった・・・・

今度は、自分のラケットを持ってやりに行こう。

   

    
2000-05-21(日)      快晴       自宅 → ヒュッテ

 今日は飛んでもない目茶苦茶な一日だった。
 ・・・・そして、その上、どうしようもない位の支離滅裂な一日でもあったのである。

 その今日の一日が、どんな一日であったか・・・・?
 これから、その一日のお話しようと思うけど・・・・僕には、何処から今日の一日の話しを始めたらよいか・・・・とんと見当が付かないのである。
 だから、とりあえず、今朝のお天気の話しから今日の日記を付け始める事にしようと思う。

 ・・・・と言う訳で、
 とにかく、今日と言う日は、快晴の天気から始まったのである。

 そう・・・・
 確かに・・・・
 僕は・・・・
 今朝・・・・
 ・・・・とても浮き浮きとした気持ちで朝御飯を食べていた。
 ・・・・
 一家三人で朝食を食べている、中野の自宅のダイニング・ルームの曇りガラスに降り注ぐ朝の光は、今日の上天気がビカビカである事を物語っていて、僕は、とても嬉しかった。
 だって・・・・今日は、また、新宿から中央自動車道高速バスに乗って小淵沢に着くまでの間、美しい景色を楽しむ事ができるからである。

 そのせいだろうか?
 僕は、いつものとおり、朝御飯の時、大きなマグカップに 3 杯の紅茶をとても美味しく飲んだのだが・・・・その所為だろうか、朝食に少し時間が掛かり過ぎ、時間不足気味のまま我が家を飛びだしたのである。

 ・・・・新宿駅に着くと、時間が気になっていた僕は、脇目も振らずヨドバシカメラ近くの中央自動車道高速バスのバス・ターミナルに直行。
 ・・・・4 枚綴りの回数券を買うと、昨日した予約の確認をし、岡谷行きの高速バスに乗り込んだのである。
 中に入ってみると、乗客の数は 20 人ほど・・・・
 僕の席は、3A ・・・・即ち、前から 3 番目の席である。
 席に着くと、僕は、まず最初に愛機マッキントッシュのパソコンを網棚に載せ、次いで背負っていたリュックサックを下ろそうとしたのだが、その置場所に少し困ってしまったのである。
 ・・・・と言うのは、僕の隣には若い男性客がいて、座席がギチギチだったし、網棚が小さくてリュクサックが入らなかったからである。
 (・・・・ああ、参ったな、こりゃあ・・・・)
 心の中で、こんな事を呟きながら、窓から外を見ると、こりゃラッキー!!
 ・・・・ナンと団体客が沢山の荷物をバスの横っパラのトランクの中に積み込んでいるではないか・・・・!!
 (しめたっ・・・・!!)
 僕は内心、こう叫ぶとリュックサックをエッチラオッチラまたまた外に運びだすと、そのトランクのなかにリュックサックを入れて貰って
 「ふう・・・・やれやれ・・・・」
 と一息をついた。
 ・・・・だが、それも束の間!
 この飛んでもない今日の一日は、この中央自動車道高速バスが定刻 09 : 40 に新宿を出発した瞬間から始まったのである。

 と言うのは・・・・
 僕は他の人と比べると比較的、トイレが近いからである・・・・要するに、オシッコとオシッコの間隔が、他の人より可成り短いのである。
 しかも、今朝は出掛けに大きなマグカップに 3 杯の紅茶を飲んで飛びだして来ているのである。
 自動車が動き出すと同時に、僕はナンとなくトイレに行きたくなってしまったのである。
 (アー、ヤバイ、トイレ、ドコニアル?・・・・ヨク、ミルアルヨロシ・・・・!!)
 と思ってバスの最後尾を振り返ったトタン、僕は真っ青になってしまった。

 このバスには、トイレがついてなかったのである。

 たしか、3 日前、小淵沢から新宿に来た時のバスの最後部にはトイレが付いていたからである。
 ・・・・僕はすっかり慌ててしまった。

 「ああ、トイレがない・・・・どうしよう・・・・!!」
 そう思った瞬間、一層、オシッコが出たくなりそうに感じ始めたのである。
 しかも、時刻表によると、最初の停車場所は双葉のサービスエリアで、そこまでの所要時間が何んと 1 時間 55 分とか・・・・
 (ああ、万事休す・・・・)
 もう、ホントに僕は生きた心地がしなかったのである。

 すると、この時
 「ピンポーン!!」
 とチャイムがなって、運転手の声がマイクから聞こえてきたのである。
 「毎度、中央自動車道高速バスをご利用下さり、まことに有り難うございます・・・・」
 から始まる一連の説明・・・・である。

 それを聞いていた僕は、運転手の
 「・・・・なお、トイレはバスの中ほどに御座居ますので、ご利用下さいませ・・・・」
 の一言を聞いて
 「やれやれ、助かった・・・・!!」
 とホッと安堵(あんど)の溜め息をついた次第であるが、そのバスの中ほどを振り返った僕は再び真っ青になってしまった。

 バスの中ほどには、キチンとした高さ 1m ほどの飲料水サーバーにの他には、同じく高さ 1m ほどのコンパートメントらしきものが一つあるだけだからである。
 「エッ?  あれがトイレなの・・・・?」
 僕は、愕然としてしまった。

 それと同時に、 7 〜 8 年ほど前に中国に旅行に行った友人から聞いた、かの国のトイレ事情の話を思い出してしまい、もう本当にマッツァオになってしまった次第である。
 ・・・・その友人の話によると、本当かウソか知らないけれど、中国の町の中の公衆トイレは男女の区別が無く、高さ 1m 程の仕切りがあるだけだと言うのである。
 「えーっ! ホントかよ? じゃあ、トイレを使っている人同士の顔がみちゃうじゃん?」
 と僕が言うと、彼はいとも簡単に
 「そうだよ! ・・・・そんなことにビックリしているようじゃ中国には住めないよ」
 と涼しい顔をしていたが・・・・
 僕は、このとき、この友人の話を思い出してしまったのである。

 「あー、ヤバイ・・・・このバスのトイレが、そんなヤツだったら、オレどうしよう?」
 ・・・・僕は、正直な話・・・・半分、生きた心地がしなかったほどである。

 ・・・・そして・・・・
 「まあ、いいや、そのうち誰かがトイレに行くだろう・・・・」
 とも考えて、暫く様子を見ることにしたのであるが、20 分経っても 30 分立っても・・・・いや・・・・40 分経っても、誰一人としてトイレを使う人が現れないのである。
 それどころか、半分近くの乗客は気持ち良さそうに眠りだしてしまい、一方の僕は、ますますトイレに行きたくなる始末!!
 ・・・・そのあと、5 分ほど我慢をしたが
 「もう駄目っ!!」
 僕は意を決して、そのコンパートメントの所に歩いて行ったが、そのコンパートメントの近くに行った僕は
 (えっ? 何に、これ?)
 と、内心、叫んでしまったのである。

 というのは、僕の座席からだと見えなかったのであるが、そのコンパートメントの陰には、下に降りる階段があり、下に降りてみると、僕の背よりも遥かに高いドアがあり、それがトイレの入口になっていたのである。
 (へーえ、そうかア?・・・・こんな風になっているんだあ・・・・)
 ドアを開けて中を覗いてみると、中はジャンボジェットのトイレより、少し小さめではあるが、チャントしたトイレになっているではないか・・・・
 (うへえ助かったア!!)
 ・・・・と、ホッとた僕であったが、オシッコをしながら、今まで中国のトイレの事を考えていた事が全くの杞憂であった事を思い出すと、突然、トイレの中で
 「ガッハッハッハ・・・・」
 と、笑いだしてしまい、その後で今度は
 (今すこし前、階段を 5 段も降りてこのトイレに入ったけど、今このトイレの床は地上何センチの所にあるのだろう・・・・?)
 とヘンな事に興味を持ち始めていた。

 しかし、自分の席に戻った僕は、すぐにそんな事を忘れてしまい、移り行く窓外の新緑の景色に心を奪われてしまった。

 ここで、僕は一つとても面白い事に気が付いたのである。
 僕は、もうこの中央高速を何回も走ったことがあるのだが、自分の車で走った時の窓外の景色と、この高速バスの車窓から眺めた景色がまるで違うのである。
 ・・・・その理由はすぐに分かったが、とにかく、この高速バスの車窓の高さが我が家のフォルクスワーゲン・カブリオレの窓の高さより圧倒的に高いのである。
 そのため、ワーゲンを運転している時は、工事壁や防音壁に遮(さえぎ)られて見ることができない景色も、この高速バスの窓からだと実によく見えてしまうのである。

 それからの一時間ほど、僕はこのバス旅行のひとときを、とても楽しく過した。

 窓外の新緑の景色の素晴らしさは筆舌に付くし難いほどだったし、双葉のサービスエリアで食べた大好きなソフト・クリームの味も最高だったからである。

 ・・・・だが、その後の小淵沢のバス停で、チョットした異変が起きたのである。

 その小淵沢のバス停に着いた時、先刻、新宿のターミナルで乗った団体客がこのバス停でドヤドヤと降りたのであるが、その一行のあとを目で追っていた僕は、突然、自分のリュックサックの異常に気が付いたからである。
 と言うのは、そのバス停で降りた一行の幹事役と思しき男が、バスの横っ腹のトランクから自分たちの荷物を下ろし始めたのであるが、その中に、見覚えのある僕のリュックサックが混ざっていたのである。
 (あれ?  僕のリュックを、どうする気だろう・・・・?)
 ・・・・僕のリュックはトランクの一番入口に近い所に置いてあったから、多分、出し入れに不便なため一時的に外に出し、皆さんの荷物を出したあと、また元の位置に戻して呉れるのだろうと思ってみていたが、さにあらず・・・・僕の荷物を自分たちの荷物と間違えているらしく、遠くの方に運んで行こうとしているではないか・・・・
 しかも、バスの運転手はバックミラーで座席の方を見回し、立っている乗客が居ないのを確かめた後、
 ギギギギギッとクラッチを入れる音までさせているのだ・・・・
 (やばいっ!!)
 こう思った瞬間、僕は自分の席を立つと
 「済みません。チョット待って下さい・・・・」
 と叫ぶが早いか、外に飛びだそうとした。
 ・・・・驚いたのは運転手である。
 「あっ、お客さん・・・・乗車券を・・・・!!」
 と、僕に向かって言ったが、僕は
 「違うんです・・・・いま降りた連中が僕のリュックを下ろしちゃったんです・・・・」
 と、運ちゃんに言うと、外に飛びだし、一行の荷物の所に追い付くと、僕のリュックを指さして
 「それ、僕のリュックです・・・・」
 と、大きな声で言った。
 すると、僕の荷物の傍に居た年を取った女性が、無言のまま僕のリュックを僕に渡して呉れたが、一体、この連中は何を考えているのだろう?

 ・・・・全く、その無神経さには呆れるばかりである。

 バッキヤロー!!

 さて・・・・僕がリュックを抱えて自分の席に戻ると、バスはまた何事も無かったように、その先の旅を続けたが・・・・もし、僕が反対側の窓ちかくの座席に坐っていたら・・・・この一行が、僕の荷物をトランクから下ろしていたことには気が付くこともなく、小淵沢で下車しようとした僕は、自分のリュックが無いのに気が付き、大騒ぎになっていたのではないかと思う。

 ・・・・いやはや、全く、間一髪のナローエスケープの一幕でありました。

   

 その後の小海までの旅は至極快適で・・・・特に、高原列車小海線の旅は、本当に楽しいものでした。

 ・・・・ところがである。
 小海駅で、小海線を降りたすぐ後に、またまた次の難題が降って湧いたのである。
 ・・・・というのは、駅の改札口を出た僕が小海中学校脇の青空駐車場まで歩いて行き、わがポンコツ車のドアを開けようとしたときに、僕は、突然、自動車のキーを中野の自宅に忘れて来たらしいのに気が付いたからである。
 (あ、ヤバイ・・・・自動車の鍵が無い!!)
 ・・・・僕は、自分の心臓がドキンと鳴る音さえも聞いたような気がする。

 自動車が無いとなると、小海での生活は全く成り立たなくなってしまうからである。

 今日だって、そうである。
 汽車を降りたあと、自分の自動車にのったら、僕は真っ先に八十二銀行に出掛けて現金を引き出し、その後で、今度はアルルで食料を買い込み、敏ちゃんのガソリン・スタンドで油を入れ、ヤナショーでちょっとした買物を済ませ、高原のパン屋さんで明日の朝のバゲットを買い込んでから、家にかえろうと思っていたからである。

 ところがである。
 僕が何処をさがしても、このポンコツ車の鍵が見当たらないのである。
 僕はいささか慌ててしまった。
 このままだと、日暮れまでに家にも帰れなくなってしまうからだ。
 (さあ、どうする?)
 僕の頭の中では、あらゆる情報がめまぐるしく回り出した。
 とにかく、何んとかして足を確保しなくてはならないからだ・・・・!!
 (よし、アルルまで歩いて行こう・・・・アルルまで歩いて行けば何んとかなるだろう!!)
 そう思って、僕は、とにかく駅前のスーパー「アルル」まで歩いて戻ることにした。
 ・・・・というのは・・・・この駐車場では、電話ひとつも出来ないからである。

 ・・・・しかし、泣きっ面に蜂とは、今日のような事を言うのだろうか?
 五分後、アルルに着いた僕は、またまた、ここでガックリするような事態にぶつかってしまったのである。・・・・と言うのは、ナント間の悪い事に今日という日が、アルルの定休日だったからである。
 こうなると、今夜の食料品をここで買うことも出来ないし、アルルの中の「みや書店」のオヤジさんの助けを借りる事も出来ない。

 とにかく、何んとかして足の確保をしたい。
 ・・・・頭の中では、あらゆる情報がブンブンと周り始めていた。
 ・・・・・・・・・・・
 勿論、タクシーを頼むことは出来なくもないが、これから行こうとしている何ケ所かを全てタクシーで回ったら、すぐに 5,000 〜 6,000 円の出費が嵩んでしまい懐具合がちょっとピンチになってしまう。・・・・というのは、小海駅から何もしないで、まっすぐにヒュッテまで行くだけでも、3,300 円ほどのタクシー代がかかるからである。・・・・その上、行く先々で、時間の掛かる買物をするのを、タクシーが待ってくれるかどうか・・・・それすらも分からないではないか!!

 僕はいつも世話になっている自動車修理工場の長男(おさお)社長の事務所に電話を入れてみた。
 ・・・・不在である。
 その他、A, B, C, D, E ・・・・僕は何人かの仲間にも電話を入れてみた。
 だが、折あしく、日曜日のこの時間には大体、皆さんが出払ってしまっているようだ。

 (だれか、いないだろうか?)
 僕は・・・・必死にカタッパシから電話を掛けまくった。
 ・・・・その途中・・・・この間、A子ちゃまと一緒に清里まで食事に出掛けたEちゃまの家にも電話をしてみた。
 不在である。

 (ああ、万事休す!!)
 僕は、体から全身の力が抜けて行くような気がした。
 ・・・・でも、何んとかなるかも知れない・・・・ココデ、アキラメルナ・・・・!!
 そう思った僕は、もう一度、全ての仲間の所に電話を入れてみた。
 だが、全員が、相変わらず留守である。

 (まあ、しようがねえや・・・・これで駄目だったら、とにかくヒュッテまでタクシーで帰るべえ・・・・!!)
 そう思って、最後の最後に、先刻、留守だったEちゃまの家に、もう一度、電話を入れてみた。
 プルルル、プルルル・・・・・・
 何回かの発信音のあとでガチャリと音がすると、突然Eちゃまの可愛らしい声が受話器のむこうから聞こえてきたのである。
 「はい、N ですが・・・・」
 「あ、Eちゃまですか・・・・宮ですが・・・・」
 「あら、コンニチハ・・・・八岳さん、さっき、ウチに電話した?」
 「うん、したけど・・・・どうして分かるの?」
 「だって、犬の散歩から帰って来たら、電話機に着信記録がのっていて、発信元を調べてみたら公衆電話ってなっていたから・・・・」
 「うん、それは・・・・僕だよ・・・・」
 「・・・・で、どうしたの?」
 「うん、お願い・・・・助けて欲しいんだけど・・・・お願いできるかな?」
 「え? よく分からないけど、一体、どうしちゃったの?」
 「いや、実はねえ・・・・」
 と、前置きをしてから、僕は、物凄い早口で、今の僕の状況を恵実ちゃまに話してみた。
 だが、突然の事とて、Eちゃまには何が何んだか分からないようである。
 「え? 鍵がどうしちゃったの? 鍵ってお家の鍵でしょう?」
 「いや、違うんだってば・・・・鍵って言うのは、自動車の鍵のこと・・・・そうそう、自動車のキーの事なんだよ・・・・」
 等々、色々なやり取りがあった後で、やっと、Eちゃまは僕の事情がホンのスコーシ分かってきたようである。
 「ウン、分かったわ、八岳さん! いいわよ、行ってあげるわ。でも、ちょっと、待ってて・・・・子供の事と、犬の事があるから・・・・」
 「うん、ホントにどうも有り難う。物凄く嬉しいよ・・・・! え? 子供? いいよ、いいよ、何人でも連れておいでよ・・・・そうだ、イイコトがある。 子供達と皆んなで、一所に僕の家でお茶を飲まない? オッケー、オッケー! うん、僕はこれから銀行に行ってお金を卸してからパロまで歩いて行って、食料品をかってから、貴女の言う農協の前でまっているから・・・・」
 と、七面倒臭い約束をしたあと、僕は、銀行に出掛けてお金を引きだしたのであるが、慌てている時は、とかくチョンボを仕勝ちなもので・・・・今度は、銀行の入口の所にお気に入りのジャンパーを忘れてしまって、途中から引き返して取りに戻る始末。
 そのあとで、もう一件、公衆電話から東京の友人に電話を入れたところ、大切な、電話のクレジットカードをその公衆電話に忘れて来るという失態までもやらかしたのである。

 その失態に気が付いたのは、パロで食料品の買物を済ませたあと、農協の前でEちゃまを待ち始めて 5 分ほどして、東京の家内に連絡を取ろうとしたときに、そのクレジットカードを先刻の公衆電話の所に忘れて来たことに気が付いたのである。
 (あー、大変だあ! あの電話のクレジットカードを無くしちゃうと、後が大変だあ!!)
 ・・・・僕は、またまた心の中で、大声でわめいた。
 ・・・・ちなみに、電話のクレジットカードというのは、公衆電話を使うときに、そのカードを電話機に挿入し、パスワードを押した後、電話を使うと、料金は全て銀行口座から引き落とされ、しかも、電話料は我が家の電話を使った時の料金と同じという、大変に便利なカードなのである。

 ・・・・・・
 ・・・・・・
 そんなこんなで、ヤキモキしている時に、Eちゃまが、子供達と一緒に僕をピックアップしにやって来てくれたのである。

 例のピカピカのワゴン車が僕のすぐ傍に停ると、中から、スラッとしたEちゃまが出てきた。
 「・・・・八岳さん、今日は・・・・!!」
 「Eちゃま、今日は・・・・!! きょうはホントにゴメンナサイ。こんな迷惑を掛けてしまって・・・・」
 ・・・・などなど、挨拶を交わし、車に乗り込むと、三人の子供達が物怖じをしない可愛らしい目付きで、僕の方を見た。
 ・・・・何か、僕にとても興味をもっているような目付きである。
 「ねえ、Eちゃま、子供達を紹介してよ・・・・とても可愛い子供達じゃないか・・・・」
と、僕が言うと
 「そう、そう・・・・そうよねえ!・・・・それでは・・・・これが、長男のSで、これが二番目で長女の***。それから、私の隣に坐っているこの子が一番小さなYでーす。さあ、おじちゃんにコンニチハしなさい・・・・」
 と言うと、子供達はそれぞれに
 「コンニチハ・・・・」
 「おじちゃん、コンニチハ・・・・」
 「コンニチワア!!」
 と挨拶をしてくれたのである。
 僕は、子供が大好きである。
 ・・・・この子供達の目を見ると、とにかく、素敵に温かい目付きをしている子供達である。
 しかも、実に目がよく合うのである。
 「ねえ、Eちゃま・・・・この子達、とてもよく育っているねえ・・・・」と僕が言うと
 「そうですかあ?」とEちゃま
 「うん・・・・よく育っている!! ・・・だって、とてもイイ目をしているもの・・・・」
 「そうかなあ?」
 「うん、素晴らしい・・・・」
 等々、二三分話したあと、言葉がホンのチョット途切れるとEちゃまが言った、
 「それでは、どちらに参りましょう?」
 「・・・・Eちゃま・・・・大変恐縮なんだけど、千曲川を渡った左側の嶋屋書店の前で一度止めて呉れないかな? 嶋屋の前の公衆電話に電話のクレジットカードを忘れて来ちゃったんどよね・・・・」
 と言って、クレジットカードの事を説明したあと
 「今日はオレ、まったくどうかしちゃってるよ・・・・さっきはねえ、銀行にジャンパーを忘れて来ちゃったんだよ・・・・」
 などと、今日の数々の失態の話をすると、Eちゃまの笑うこと笑うこと・・・・!!

 それにしても、今日は、何んとツイテイル日なんだろう・・・・!!
 千曲川を渡って、嶋屋の前の公衆電話の所にいってみると、あれから 30 分も立っているのに、クレジットカードはチャンと電話機に刺さったままになっているじゃありませんか・・・・!!
 これをラッキーと言わないで、何がラッキーだというのでしょう!!

 さて、その後で・・・・
 高原のパン屋さんでバゲットとケーキを買ったあと、Eちゃまの車でヒュッテまで戻って来たまではよかったのだが、ヒュッテに着いた所で、またまた次のハプニングに見舞われたのである。

 と言うのは、ヒュッテに着き、表に飛びだした子供達が
 「わあ、おじちゃんち、とってもキレイ・・・・」
 と言って、庭の方に走っていくのを見た僕が
 「ねえ、子供達、足元に気を付けるんだよ・・・・!!」
 と大声で注意をしたあと、ヒュッテのドアを開けようとした僕は、この段階になってはじめて、ヒュッテの鍵が東京に忘れてきた自動車のキーに付いていたことを、こ思い出したからである。

 「Eちゃま、大変だ!!・・・・この家の鍵は、東京に忘れてきた自動車のキーホルダーに付いていたんだよ・・・・だから、自動車の鍵がないと、この家の中に入れないんだよ!! うわあ、困ったなあ・・・・」
 ・・・・僕は大喜びで庭を走り回っている子供達の姿を見ながら、深い溜め息をついた。

 さあ、どうしよう?
 またまたピンチに見舞われた僕は、ふと管理棟の事を思い出した。
 「そうだ・・・・Eちゃま、申し訳ないけど・・・・1 キロほど離れた別荘の管理棟迄僕を連れて行って呉れないかな! もしかしたら、今日は日曜だけど、誰か、いるかも知れないから・・・・もし、誰かいれば預けてある僕ンチの鍵を借りて来る事が出来るかもしれない・・」
 (ああ、ホントにこれで管理棟に誰も居なかったら、子供達に何んて言おう?)
 ・・・・僕は、本当に惨めだった。
 そんな事があったせいかも知れない、恵実ちゃまが僕を管理棟まで連れていってくれる間、僕は、車の中でホンとに
 (・・・・管理棟に誰かいますように・・・・!!)
 とお祈りをしたものである。
 だって、これで家の中に入れなかったら、子供達が余りにも可哀相だもの・・・・!!

 ・・・・だから、管理棟に畑さんと小平さんがいたのを見た時、僕はホンとに
 (ああ、よかった!!)
 と、胸をなで下ろした次第である。

 「よーし、さあ、じゃあ、おじさんのウチに行ってケーキを食べようぜ・・・・!!」
 ・・・・僕は、ホンとに嬉しくなって、こう子供達に呼びかけたものである。

   
 ヒュッテの中に入ると、子供達は大喜び。
 「おじちゃんち、とってもキレイ!!」
 「わあ、見て見て、おじちゃん、これ、なあに?」
 等々、子供達は大はしゃぎである。
 ・・・・子供達を二階に連れて行くと、長男のS君は、マンガの本に気が付いて床に坐ったまま読みだして動かなくなってしまうし、末っ子のYちゃんは
 「ここが、おじさんのベッドなんだよねえ・・・・」
 と、言ったトタン、ベッドの中に飛び込んでフトンの中にクルクルとくるまってしまい、とても気持ちよさそう・・・・
 それを見て、僕は思わず
 「ねえ、おフトンの中、気持ちイイ?」
 と、聞いてしまったほどである。

 「さあ、それじゃあ、今度は下に行ってケーキを食べようぜ・・・・・!!」
 と言うと、
 「おじちゃん、行こう、行こう!!」
 と、子供達は大喜び・・・・
 「よーし、それっ・・・・」
 と言って、階下に降り、
 「さあ、それじゃあ、子供達、皆んな、このテーブルの周りに坐ってえ・・・・」
 と言ったトタン、電話のベルがなったのである。

 「あー、もしもし、宮ですが・・・・」
 受話器を取って耳に当て、僕がこう言うと
 「あ、パパ? 私だけど・・・・今まで、どこに居たの?」
 という家内の声。
 ・・・・
 声は、いつもながらの家内の声だけど、何んとなく、緊張感の漂った雰囲気の声
 「いや、何処ってことないさ! 実は、今日、自動車のキーをそっちに忘れて来ちゃってさあ、エレエ目に合っちゃったんだよ・・・・」
 と、今までの経緯(いきさつ)を話しEちゃま一家のお陰で、ヒュッテまで送り届けて貰い、いま子供達と一緒にケーキを食べ始めたところだよ・・・・と説明したあと
 「ところで、何んの用事?」
 と聞くと、
 「今日の夜、そっちの音楽会の後で開かれる演奏家を交えての懇談会ので、パパに通訳をやって欲しいんですって・・・・小海町の小池さんの奥様から電話があったのよ・・・・」との事。
 「えーっ? 何んだよ、急にい!!」
 と言ったあと、事情が分らないまま、
 「兎に角、何が何んだか分らないけど、説明をしてみてよ」
 と、僕が言うと・・・・家内は、今夜、こちらで開かれる予定の誰かの音楽会の後の懇談会で、誰かが僕に通訳をして欲しいと言っている・・・・という話を、電話機の向こう側で、早口で説明した。
 「・・・・事情がよく分からないので、何んとも返事のしようがないけど、もし、誰かからこの件について電話があったら、よく話を聞いた上で、どうするか考えてみるよ・・・・」
 と、返事をして、電話を切り、子供達の所に行くと僕は大声で言った・・・・
 「ゴメンネエ・・・・さあ、ケーキ、ケーキ・・・・」

 だが、僕が子供達にこう言ったトタン、オー・マイ・ゴッド!!
 またまた、電話の呼び鈴がなったのである。

   

 「八岳さん? 今日は! 小池ですけど・・・・!」
 受話器をとると、八那池の小池さんの奥さんの声がした。
 ・・・・
 彼女の家はとても音楽好きの一家で、彼女のご主人は佐久室内オーケストラの首席チェリスト、二人の息子さんは将来有望なヴァイオリニスト、彼女自身も前述のオケでヴァイオリンを担当している。
 「・・・・やあ、今日は、家内から聞いたけど、なんか、通訳が必要なんですって・・・?」
 と言うと・・・・
 「そうなんですよ・・・・今朝、急に、そんな連絡があったもんですから・・・・それで、皆で手分けして通訳が出来そうな人をアッチコッチ探したんですけど、みーんな誰も居なくて・・・・最終的に、あと八岳さんしか居ないって言う事になって・・・・探し回ったら、東京に行っているらしいっていう事になって・・・・それで、東京のご自宅に電話したら、奥様が電話に出られて・・・・話を聞いてみたら、今朝、こちらに向けて出掛けられた・・・・と言う話。 奥様の話では、午後の 3 時位にこちらに着く・・・・という事だったので・・・・それじゃあ、という訳で何回もお宅に電話を入れてたんです・・・・」
 「分かりました。 それで、その通訳っていうのは、何時にどこですればいいんですか?」
 と聞くと
 「西武の音楽堂で 6 時から、音楽会が始まるの・・・・だから・・・・」
 間もなく出掛けないと間に合わない!!・・・・と彼女は大変に恐縮して、こう付け加えた。
 「えっ? ヤルヴィホールじゃなくって西武の音楽堂? それに、もう出掛ける時間?」
 ・・・・僕は瞬間的に、三人の子供達の事を考えた。
 子供達は、恵実ちゃまと一緒にテーブルの周りに腰掛けてケーキを待っている。
 ・・・・それじゃあ、子供達が余りに可哀相だ!!
 僕は、子供達に向かって、
 ”食べて、食べて・・・・ケーキを食べてて・・・・!!”
 と手で合図をして、受話器の小池夫人に言った。
 「いま、僕の家に、三人の子供達とそのお母さんが来てるんだよ!! ・・・・それで、その子達はたった今ここに着いたばかりなんで・・・・今、僕が出掛けちゃうと、その子達がとても可哀相なんだよね・・・・」
 「・・・・はあ、子供達とお母さんですかア?」
 今度は、こちらの事情が全く分からない小池夫人がビックリしたらしい・・・・
 だって、普通ならば、僕はこのヒュッテで独身生活を送って居るはずなのに、選りに選って、うら若き女性とその女性の子供達 3 人がヒュッテに来ているなんて!!
 ・・・・普通ならば、だれでもチョットびっくりするはずである。
 ・・・・僕は、小池夫人の驚いている顔を想像すると、プッと噴き出しそうになって、受話器に向かって言った。
 「違う、違う・・・・違うんだってばさあ・・・・!!」
 僕は慌てて、こう言うと、今日の午後、こちらに着いてから起きた事を手短に彼女に話してみた。
 ・・・・勿論、素直な小池夫人は、僕が一人の女性とその子供達と居たからって言ったって、ヘンな事を想像するような人ではないのだが、キチンと説明をしておかないとEちゃまに大変申し訳ない事になってしまう。
 ・・・・・・・
 小池夫人と僕との電話での会話は、「通訳の話」と「なぜ子供達がここに居るか?」の話が重なり合って、双方がある程度納得するまでに、10 分ほどの時間が掛かってしまった。

 その間、Eちゃまは何回となく僕の傍にやってきて
 「・・・・八岳さん・・・・子供達は、管理棟の近くのアスレチックに連れていって、滑り台で遊ばせるから大丈夫です・・・・大切なお仕事をなさって下さい・・・・!!」
 と、盛んに言っているのだが・・・・・
 ・・・・とにかく、少しでも子供達と遊んで上げないと・・・・と思っている僕は気が気でない。
 「それじゃあ、兎に角、少し考えさせて下さい・・・・15 分以内に、また電話をしますから・・・・」
 と、電話機の小池夫人に告げてから電話を切ることにした。

 小池夫人からの話を要約すると、こうである。
 今日の午後 6 時から、野辺山高原にある西武の音楽堂で、館野泉さんと二人の外人演奏家によるピアノ・トリオの演奏会があるが、そのあとのトリオの演奏家達と聴衆との懇親会で通訳をすることになっていた人が急に出られなくなったので、何んとか協力して上げて欲しい。もし、宜しければ、ピアニストの鷹野道子さんから、電話が行くと思いますから・・・・という話である。
 僕は、電話を切ると、子供達とケーキを食べながら、勉強の話、ナゾナゾ、子供達の大好きなもの等の話をなるべく沢山した。
 ・・・・それと同時に、その一方では盛んにこの通訳の仕事の話の事を考えていた。

 まず第一に、西武の音楽堂と言うと、この小海線沿線では一番ステータスのあるコンサートホールで、やって来る音楽家たちは一流の演奏家達ばかり・・・・聞きに来る聴衆たちも、東京や名古屋あたりから高い宿泊代とチケット代を払ってやって来る人達が多いという、まさに、僕のようなガラッパチ連中とは違ったレベルの人達のソサイエティの集まりなのである。
 ・・・・そんな正式の場での通訳が僕に努まるだろうか?
 それが、僕の第一の心配であった。
 ・・・・でも、皆さんが僕を探し出そうとして、色々苦労をして来たのを見ると、矢張り、何かが相当困っている・・・・もし、お役に立つことが出来るならば、それはそれで、とても良い事なのではないか・・・・とも思えてしまう。

 そんな事を考えていたら、何回もEちゃまが
 「・・・・八岳さん、子供達は、別荘管理棟の近くのアスレチックに連れていって、滑り台で遊ばせるから大丈夫です・・・・大切なお仕事をなさって下さい・・・・!!」
 と言って呉れるのだが、僕にすれば、やはり子供達の事が気になって仕方がない。
 「ホントにいいのかなあ? なんか可哀相な気がして・・・・・」
 と、言うと
 「ホントに大丈夫です・・・・今日はまだ遊びたりないから・・・・!!」
 ・・・・と言って呉れるEちゃまの気持ちが、僕はとても嬉しかった。
 「ウン! ・・・・分った。 じゃあ、行かせて貰うけど、チャンスがあったら、また、子供達と一緒にきてね・・・・」
 ・・・・Eちゃまは、僕の言葉を受けて
 「うん、また来るわ・・・・ねえ、皆んなもおじちゃんの家にまた来るよねえ?」
 と言うと、子供達は
 「うん、また来る来る・・・・」
 と異口同音に無邪気に言う。・・・・その可愛さといったら・・・・惚れ惚れとするほどである。

 僕は早速、小池夫人に電話を掛けて
 「・・・・先刻の通訳の件、何んとか協力できそうです・・・・・」と言うと、彼女は
 「ああ、良かった・・・・それでは道子さんに、その旨、連絡を入れますけど・・・・すぐに、彼女から八岳さん宛てに電話が行くと思いますので・・・・」
 と言って電話を切った。

 ・・・・すると、3 分もしない内に電話がなった。
 「・・・・はい、宮ですが・・・・」
 と言うと
 「あ、八岳さん・・・・今日はあ!! 鷹野でーす。 あのー、和枝さんから聞いたんですけど、ご協力頂けるそうで・・・・」
 「え、ウン! 何が何んだか・・・・よく分らないんだけど・・・・まあ、出来るとこまでやってみますよ・・・・」
 「いや、私もよく事情が分らないんだけど・・・・これから、すぐ、そちらにいきますから・・・・」
 「えーと、僕の家、分ってる・・・・」
 「うーんと、分らない・・・・どういう風に行ったらいいのかしら?」
 「電話で言っても分らないから、兎に角、美術館の前で会いましょう・・・・」
 と言うと、僕は二階に駆け上がり、アッと言う間に着替えをして、階下に戻るとEちゃまに言った。
 「悪いけど、僕を、美術館の前まで乗せて行ってくれる?」

  
 ・・・・・・・
 5 分後、僕はEちゃまを鷹野さんに紹介していた。
 ・・・・子供達は、自動車がここ美術館前に着くと同時に、
 「ワアー!!」
 と大声をあげて、アスレチックの長い滑り台の方に駈けて出して、行ってしまっていた。
 ・・・・僕は鷹野さんに、きょう僕がEちゃまに大変お世話になった事を手身近に話し、何故、今、僕が彼女と一緒にいるのかを説明したあと、僕はEちゃまに
 「きょうはお世話になっちゃって、本当にどうも有り難う・・・・また、子供達と一緒に遊びに来て下さい・・・・」
 と、お礼を言っあと、僕は鷹野さんの車に乗せて貰って、野辺山の西武の音楽堂に向けて出発することになった。
 「ところでさあ、道子さん、今日はいったい何があって、こういった事になっちゃったの?」
 ・・・・自動車が動きだすと、僕はすぐにこう切り出した。
 話はチョット横道にそれるが、この辺りの人達は人を呼ぶときに、名字を使うことは殆ど無い。
 ・・・・と言うのは、同じ名字の家が余りに多いから、名字で呼ぶと誰が誰だか分らなくなってしまうからである。
 ちなみに、下の八那池という部落に行くと、120 軒ほどの家の中の 100 軒近くが小池姓を名乗っているから、そのあたりの事情はお分かり頂けるのではないかと思います。
 
・・・・・・・
 ・・・・道子さんは、ハンドルを握りながらユックリと言った。
 「私も、よく分らないんだけどサア・・・・通訳をしてくれる外人さんが、急に来られなくなったんですって・・・・」
 「ふーん! ンで、今日はどんな曲を演奏するの・・・・?」と僕。
 「ウーン、私もよく聞いてないんだけどピアソラのタンゴなんですって・・・・」
 「それで、館野泉さんと共演するのは、ヴァイオリンとチェロを奏く外人さんだって、さっき電話で言ってたよねえ・・・・」
 「そう、アイルランドから来た女性二人だっていう話しだったけど・・・・」
 「えっ、アイルランドの人〜〜〜〜〜〜〜〜??」
 瞬間、僕はスットンキョウな叫び声を上げた。

     
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