1998-03-19  

春の嵐

     

夜。

低気圧がちかづいて

     温かい南風が吹き荒れている。

寝室の窓を開けて外を覗くと

     流れて行く雲の間に小さな星がチカリと瞬いた。

     

     

嵐。

生ぬるい風が窓を打つ春の宵(よい)は

     遠い憧れが体中に渦を巻く。

轟々と唸る風に窓ガラスがガタリと鳴ると、

     遠く懐かしい少年の日の思い出が甦(よみがえ)って来た。

     

     

灯。

こんな宵は、ストーブの傍で何を読んでも

     あのヘッセの詩集さえもが、妙によそよそしく、

大好きなフリオ・イグレシアスを聴いてはみたが

     うるさくって、すぐにスイッチを切ってしまった。

     

     

静。

不意に思い付いて、本当に久方振りに

     チューブの水彩絵の具をパレットに捻り出してみた。

・・・・そして、左手の親指をパレットの指穴に差し込んだら、

     油絵に夢中の東京にいる家内のことをフト思いだした。

     

     

・・・・・・・「今頃、彼女は何をしているだろうか?」

     

     

     

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