87. 高原の秋

2003-07-25
モクモクと盛り上がる入道雲が、どんなに銀色に光っていても

日向を飛ぶオニヤンマの目玉が、どんなに緑色に輝いていても

或る朝、一陣の風が・・・・・・道端のコスモスの花をサッと揺らすと

もう高原は既に秋声!!

気が付くと、空までがずっとずっと奥深くなっていた。

        

       

高原の秋は不意にやって来る!!

・・・・・・

夏の光がどんなに強くても

少女の麦ワラ帽子のリボンが、どんなに風にそよいでも

若い女性の肩が、眩(まぶ)しい朝日にどんなに輝いても

或る朝、一陣の風が高原を吹き抜けると

もう、高原は秋一色に包まれている。

        

      

あんなに威張っていた銀色の入道雲も

・・・・・・今では・・・・・・青空のキャンバスに、

白いエノグの刷毛で、サッサッと掃(は)いた様な、

涼やかな巻雲(けんうん)にとって代わり

力強い羽音を立てて飛んでいたオニヤンマも

気が付けば、竿の先に止まっている赤トンボに変っていた。

    

    

そう・・・・・・

ひとり秋風に吹かれて高原に立つと

爽やかな風が・・・・・・過ぎ去った暑い夏を思い起こさせ

草叢(くさむら)にすだく弱々しい虫の音が

夏の喧騒の挽歌を奏でている

   

   

秋は淋しい・・・・・・と人々は言い

「然り!!」と、僕自身も心からそう思う

だが、何人の人達が知っているだろうか・・・・・・?

秋の本当の美しさは

高原を渡る爽やかな風に秘められた

その淋しさの中にこそある事を・・・・・・・

    

(2004-06-07 掲載)