モクモクと盛り上がる入道雲が、どんなに銀色に光っていても日向を飛ぶオニヤンマの目玉が、どんなに緑色に輝いていても
或る朝、一陣の風が・・・・・・道端のコスモスの花をサッと揺らすと
もう高原は既に秋声!!
気が付くと、空までがずっとずっと奥深くなっていた。
高原の秋は不意にやって来る!!
・・・・・・
夏の光がどんなに強くても
少女の麦ワラ帽子のリボンが、どんなに風にそよいでも
若い女性の肩が、眩(まぶ)しい朝日にどんなに輝いても
或る朝、一陣の風が高原を吹き抜けると
もう、高原は秋一色に包まれている。
あんなに威張っていた銀色の入道雲も
・・・・・・今では・・・・・・青空のキャンバスに、
白いエノグの刷毛で、サッサッと掃(は)いた様な、
涼やかな巻雲(けんうん)にとって代わり
力強い羽音を立てて飛んでいたオニヤンマも
気が付けば、竿の先に止まっている赤トンボに変っていた。
そう・・・・・・
ひとり秋風に吹かれて高原に立つと
爽やかな風が・・・・・・過ぎ去った暑い夏を思い起こさせ
草叢(くさむら)にすだく弱々しい虫の音が
夏の喧騒の挽歌を奏でている
秋は淋しい・・・・・・と人々は言い
「然り!!」と、僕自身も心からそう思う
だが、何人の人達が知っているだろうか・・・・・・?
秋の本当の美しさは
高原を渡る爽やかな風に秘められた
その淋しさの中にこそある事を・・・・・・・
(2004-06-07 掲載)