49. 初夏の想い

(2000-07-04) 

   

山登りの身支度をすっかり整え

「さあ、行こう」・・・と、登山靴のヒモを締めて外に出たら・・・

ポツリ・・・・・・・!!

大粒の雨が顔に当たったよ。

耳を澄ますと、パラパラと屋根を打つ雨の音。

・・・・ウラメシそうに空を見上げ、僕は舌打ちをした。

   

   
・・・・本当は、和市さんが探していると言う、

八ヶ岳の上智小屋を探しに行く予定だったのに・・・・!!

・・・・そんな事を考えながら、空を見上げていると

森の彼方から、黒い雲がドンドンと沸きだして来る。

「チェッ! ・・・・これは止めた方がよさそうだ・・・・」

僕は仕方なく、家の中に引き上げて来た。

   

   
急の予定変更で、何をする当てもない。

・・・・登山靴を片付けたり

一枚の紙を手に持って

「何処にしまおうか?」・・・・などと

部屋の中をウロウロしている僕。

耳を澄ますと・・・・遠くの方で、雷がゴロゴロと鳴り始めた。

   

   
・・・・どの位、時間が経ったろうか?

大きなカップに、熱い紅茶をなみなみと注(つ)ぎ

二階の窓際の勉強机の前に坐って

僕は雨の降る庭をボンヤリと眺め始めた。

ヒュッテの中にはシューベルトのD894 が静かに流れ

むせ返るような草いきれが、窓の網戸を通して匂ってくる。

   

   
・・・・若かった日々の、山の想い出に駆られて・・・・

フト、目に付いたヘップバーンの写真集を・・・・・・・

壁際の本棚からソット取りだして

ゆっくりとページを繰り始めた僕。

・・・・大好きだったオードリーの写真集を眺めていたら

昨夜、メールを呉れたエミちゃまの事を、急に懐かしく思い出した。

  

  
「何故・・・・エミちゃまを・・・・?」

・・・・遥かな思いで、頭のウシロで手の指を組み合わせ

淡い水色ににも似た、ピアノ・ソナタを聴きながら

窓の外の初夏の緑を眺め始めた僕。

もし、彼女が今・・・・この部屋の中にいたら・・・・

僕は彼女を、ソッと抱き締めちゃうかも知れない。

   

   
僕の心の中で、いつ迄も生き続ける少年時代の想い。

夏休みが近づいて来ると・・・・

「ウワーイ、夏休みだアーー」と大声で叫んで

大きな空に向かって、麦わら帽子を投げ上げていた少年時代の僕。

今、エミちゃまの事を考えていたら・・・・

そんな夏の匂いが、脳裏をかすめて行ったからかも知れない。