(2000-07-04)
山登りの身支度をすっかり整え
「さあ、行こう」・・・と、登山靴のヒモを締めて外に出たら・・・
ポツリ・・・・・・・!!
大粒の雨が顔に当たったよ。
耳を澄ますと、パラパラと屋根を打つ雨の音。
・・・・ウラメシそうに空を見上げ、僕は舌打ちをした。
・・・・本当は、和市さんが探していると言う、八ヶ岳の上智小屋を探しに行く予定だったのに・・・・!!
・・・・そんな事を考えながら、空を見上げていると
森の彼方から、黒い雲がドンドンと沸きだして来る。
「チェッ! ・・・・これは止めた方がよさそうだ・・・・」
僕は仕方なく、家の中に引き上げて来た。
急の予定変更で、何をする当てもない。・・・・登山靴を片付けたり
一枚の紙を手に持って
「何処にしまおうか?」・・・・などと
部屋の中をウロウロしている僕。
耳を澄ますと・・・・遠くの方で、雷がゴロゴロと鳴り始めた。
・・・・どの位、時間が経ったろうか?大きなカップに、熱い紅茶をなみなみと注(つ)ぎ
二階の窓際の勉強机の前に坐って
僕は雨の降る庭をボンヤリと眺め始めた。
ヒュッテの中にはシューベルトのD894 が静かに流れ
むせ返るような草いきれが、窓の網戸を通して匂ってくる。
・・・・若かった日々の、山の想い出に駆られて・・・・フト、目に付いたヘップバーンの写真集を・・・・・・・
壁際の本棚からソット取りだして
ゆっくりとページを繰り始めた僕。
・・・・大好きだったオードリーの写真集を眺めていたら
昨夜、メールを呉れたエミちゃまの事を、急に懐かしく思い出した。
「何故・・・・エミちゃまを・・・・?」・・・・遥かな思いで、頭のウシロで手の指を組み合わせ
淡い水色ににも似た、ピアノ・ソナタを聴きながら
窓の外の初夏の緑を眺め始めた僕。
もし、彼女が今・・・・この部屋の中にいたら・・・・
僕は彼女を、ソッと抱き締めちゃうかも知れない。
僕の心の中で、いつ迄も生き続ける少年時代の想い。夏休みが近づいて来ると・・・・
「ウワーイ、夏休みだアーー」と大声で叫んで
大きな空に向かって、麦わら帽子を投げ上げていた少年時代の僕。
今、エミちゃまの事を考えていたら・・・・
そんな夏の匂いが、脳裏をかすめて行ったからかも知れない。