(1999-04-19)
この山間(やまあい)の小さな町の
寒く暗い冬が終り
明るく暖かい春がやって来ると
僕はシューベルトのD894の
ピアノソナタを聴き始める
不思議な事に
晩秋から厳冬期に掛けてだと
部屋の中がどんなにヌクヌクと暖かくても
この曲を聴きたいと思うことは
めったにない・・・・が
朝霜に震える春が過ぎ
木漏れ日が目に眩(まぶ)しい
すがすがしい初夏になると
この曲は山間のヒュッテと
僕の心に一番しっくりと合う
あるゆるピアノソナタの中で
一番好きなこのD894
一般的には余り評価されてないこの曲だが
僕にとっては、梅雨時(つゆどき)のアジサイの花のような
淡く静かな名曲である
以前・・・・・
あんなにも大好きだった
ベートーヴェンのピアノソナタの数々も
この曲を初めて聴いたトタンに
その場所を、この曲にすっかりと譲ってしまった
今朝は、庭に冷たい雨が降っている。
家内が大切にしている
大きく枝を拡げているヤマハンノキが
煙ぶるように
暖かい息づかいをしている・・・・のがよく分かる。
ベランダの小さな水溜まりに描(えが)かれる
小さな波紋を眺めながら
朝食を食べるのも忘れて
ボンヤリとこの曲を聴いている僕
生きてる・・・・って、どうしてこんなに美しいんだろう!!